
欧州通貨統合の原点:ウェルナー報告書の全貌
ウェルナー報告が世に出た背景には、一九七一年のニクソンによる衝撃的な政策転換がありました。当時、米国の経済政策に対する欧州各国の疑念は深まっており、変動相場制への移行が欧州経済に及ぼす影響を強く憂慮していました。特に、欧州共同体加盟国間の連携を保ち、経済統合を推し進めるには、為替の安定が欠かせないという考えが広まっていました。ニクソンによる政策転換は、金とドルの交換停止という内容であり、国際的な金融システムを大きく揺るがしました。欧州各国は、この混乱から自国経済を守り、安定した経済圏を築くために、独自の対策を講じる必要に迫られました。また、米国の政策変動に左右されない、より強固な経済基盤を確立しようとする動きが活発化しました。こうした状況下で、ルクセンブルクの首相であったピエール・ウェルナーが中心となり、通貨統合に向けた具体的な提案を行う報告書を作成することになったのです。ウェルナー報告は、単なる為替相場の安定化策ではなく、欧州経済の将来を見据えた、より長期的な構想を示すものでした。米国の経済政策への懸念が、欧州各国が団結し、独自の道を歩むための原動力になったと言えるでしょう。