
新たな経済の幻想と現実:情報技術は景気をどう変えたのか
一九九〇年代後半、世界経済は大きな変化を経験しました。情報技術への集中的な投資が、この変革の中心にありました。多くの企業が情報網を構築し、業務の効率化を図りました。この流れの中で、「新経済論」という考え方が生まれました。これは、情報技術の活用により、企業の調達、生産、在庫、販売といった各段階が最適化され、従来の経済で見られた景気変動がなくなるという理論でした。特に、在庫の変動によって引き起こされる景気変動が解消されると考えられました。つまり、情報技術によって需要の予測が正確になり、在庫管理が効率化されるため、景気の波が起こりにくくなるとされたのです。当時の経済は安定成長を続け、株価は上昇し、失業率は低下、物価の上昇も抑えられていました。人々は、情報技術がもたらす新たな経済の可能性に期待を寄せていました。しかし、この楽観的な見通しは、後に現実の壁に直面することになります。